競馬担当新聞記者(男・30代)が札幌競馬で出張中に急性心不全(特発性心室細動)を発症して死亡した過労死事案の労災認定

事案と受任前

 本件は、スポーツニッポン新聞社の競馬担当新聞記者(30代男性)が札幌競馬取材のため長期出張中の1986年7月25日に急性心不全(特発性心室細動)により死亡した事案です。

 中央労働基準監督署長が、出張の繰り返しや出張中の過重労働を否定して労働災害(労災)と認定しなかったことから、被災者の妻が東京の弁護士に依頼して行政不服審査請求をしてきましたが、審査請求も通りませんでした。妻は当職を弁護団に加えて東京地方裁判所に訴訟を起こすことになりました。

弁護活動と結果

 東京地裁平成14年2月27日判決(労働判例825号32頁)は、スクープ記事の執筆や変則的な勤務時間、勤務内容の変更など新聞記者特有な労働の質を考慮し、新聞記者の業務の過重性を初めて認め、労働災害(労災)と認定しました。 ※裁判所HP

 以下では、訴訟での工夫や判決の内容を述べます。

 訴訟では、出張が多く、出張時の業務内容が不規則であるという競馬担当記者の業務の特徴を主張しつつ、死亡1週間前には、通常の業務以外に、三冠馬「シンボリルドルフ」引退のスクープ記事の執筆、公休日での特集記事の執筆、高校野球南北海道大会決勝戦の取材と記事の執筆、札幌競馬メインレース「札幌3歳ステークス」のフェスティバルへの出演などの業務が加わったことにより、さらに過重なものとなったことを強調しました。これを受け、東京地裁判決も死亡1週間前の業務が精神的、肉体的負担があったと認定しました。労災認定基準の改定(平成13年12月12日)により長期間の業務による過重負荷に重点が移っている傾向がありますが、発症前の短期間における急性ストレスについても検討することが必要です。

 また、新聞記者は労働時間の把握がしにくいため、訴訟では、労働時間とは別に、労働の量が過重であったことの指標として、被災者が執筆した記事の量(行数)を数えて主張したところ、東京地裁判決は記事の執筆量の過重性を認定しました。

 さらに、新聞記者は、裁量労働の典型とされ、労働時間の把握ができず、労災認定が困難とされていましたが、本件では、競馬担当記者の業務の特徴は、出張が多く、出張時の業務内容が不規則であるので、スクープ記事の執筆や変則的な勤務時間、勤務内容の変更など新聞記者特有な労働の質を考慮し、新聞記者の業務の過重性を認めるよう主張しました。これを受け、東京地裁判決は、競馬新聞記者の出張期間中の早朝調教取材から始まる職務の時間が変則的であることなどから、精神的、肉体的に相当負担のある業務であることを認めました。記者、カメラマン、編集者などの業務は不規則な勤務であることが労災認定基準でも指摘されていることからすると、当然のことです。

 出張について、訴訟では、単に「出張した」というだけではなく、被災者の出張業務の特質を拾い上げていき、出張時の宿泊先と自宅との環境の違い、単独出張の精神的な緊張感、初対面の人にも取材することなどを強調しました。この主張を受け、東京地裁判決は、競馬担当記者として経験を生かせる業務であったにもかかわらず、初対面の人にも取材しなければならならないことや、出張時の宿泊先が自宅と環境を異にするなどの事情も加味して、精神的、肉体的に相当負担のある業務であると認定しました。出張業務における労働の質や宿泊環境などの事情も加味して出張業務の過重性を認めたことに意義があります。

解決のポイント

 訴訟では被災者が執筆した記事の量(行数)を数えて主張しました。東京地裁判決が記事執筆料の過重性を認めたのは、記事を一行ずつ数える地道な作業のたまものですが、労働時間が不明確で、必ずしも長時間労働が肯定できない場合の量的な主張の一例です。やはりストレスを強調するだけでは分かりづらく、仕事の量をどのように現すのかが重要です。

 また、本件では、被災者の札幌出張前と札幌出張中との記事量の比較と、札幌出張中の他社の記事量との比較を行いました。出張などの出来事があった場合、その前後の業務量の比較ができるのであれば主張します。これに対し、同僚または同業者との比較は通常しません。それは同僚が倒れていないから過重でないという主張がなされることが往々にしてあるからです。しかし、その比較が可能であれば、積極的に主張していくことになります。

 このような工夫が労災認定に結びついたと考えます。

過労死(労災保険)に関するその他解決実績

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