精神障害・自殺の労災認定におけるストレス評価

長時間労働を続けるなどしてうつ病などの精神障害を発病し、場合によっては自殺に至る(過労自殺)ことが、仕事と関連があるとして、労災を認める裁判が相次いでいます。

 背景には、労働者の自殺が急増し、精神障害や自殺について労災申請件数が激増しているのに、労災認定される率が低く、裁判に持ち込まれる事例が増えていることがあります。

 厚生労働省の労災認定基準によれば、労災認定には、①精神障害を発病している、②発病前のおおむね6か月間に仕事による強いストレスがある、③仕事以外のストレスや個人的要因で精神障害を発病していないという3つの要件を満たすことが必要です。

 ②の要件では、発病の原因となったとみられる個々の出来事のストレス強度を、36項目の評価表を基に3段階で測ります。例えば「勤務形態に変化があった」は強度Ⅰ、「ノルマが達成できなかった」は強度Ⅱ、「退職を強要された」は強度Ⅲとなります。さらに、その出来事の程度や労働時間・社内の支援体制など出来事に伴う変化などの事情を加味して、ストレス度を総合評価します。

 問題は、まず出来事ごとにストレスを測るため、強度Ⅰの出来事がいくつ集まっても強度Ⅱとは評価されない点です。強度Ⅱの出来事が複数あればストレス度が「強」と総合評価されることがありますが、そうはいっても、日常業務で日々生じる混乱や心の落ち込みが慢性ストレスとなるという、ストレスの積み重ねは十分に評価されるわけではありません。また、発病後の出来事は原則として考慮されないため、精神障害を発病し、仕事の効率が下がるなどして残業をして、さらにストレスをためて自殺したという場合に、労災認定されない可能性があります。

 このように労災認定基準はさまざまなストレスや要因を総合判断するとしながら、本人の置かれた立場や状況が必ずしも適切に反映されるとはいえません。

 一方、裁判では、行政の認定基準に縛られず、より柔軟な判断をされるので、労働基準監督署長が労働災害(労災)を認めなくても、それを覆す判決が増えています。

 大手自動車メーカーで設計担当だった係長が、設計の遅れなどからうつ病を発病し、自殺したケースでは、極度の長時間労働や行政の認定基準でストレス度が「強」と評価される決定的な出来事はなく、労働基準監督署長は、裁判の場でも、労災認定基準に基づき労働災害(労災)にはあたらないと主張しました。これに対し、裁判所は、労災認定基準では重視しない発病後の事情も含め、当人の置かれた状況や立場からストレスを測りました。中間管理職として係長の業務はストレスが強く、会社の残業規制で過密労働であった上に、複数の車の設計が重なる、出図の期限が遅れる、労働組合の職場委員長就任も決まるなど、複数の出来事が重なり、強いストレスを受けてうつ病を発病し、その後も、開発プロジェクトの作業日程調整に当たり、海外出張命令も受けるなどして、うつ病が悪化し、過労自殺に至ったとして、労働基準監督署長の判断を違法としました。

 パワハラの評価について、主任に昇格、量、質ともに仕事が過重となった上に、上司から「主任失格」、「おまえなんかいてもいなくても同じだ」、「目障りだから、結婚指輪を外せ」などと暴言を浴び続けた男性が自殺したケースでは、裁判所は、上司の言動を「何ら合理的理由のない、単なる厳しい指導を超えたいわゆるパワハラ」として、「一般的に相当程度、心理的負荷の強い出来事」と重大に評価し、労働災害(労災)を認めなかった労働基準監督署長の判断を否定しました。

 労災認定基準の主な問題は、原則として職場の出来事を細分化してストレス評価する点です。当人の精神的な状況を反映した総合的な評価をすることが望まれます。

 精神障害・自殺事案においては、長時間労働や業務内容に関する証拠を確保することが重要です。証拠の保全や労働基準監督署への労災申請には、初期の段階から弁護士が代理人になった方がよいです。そして、証拠の分析をした上で労働時間数を算定するなどして労働基準監督署に請求をした方がよいので、お早めにご相談ください。

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