20代女性の事務社員が上司から叱責を受けたことによりうつ病を発病して自殺した事案

【加野青果ほか事件・名古屋高判平29.11.30-21歳女性の事務社員が上司から叱責を受けたことによりうつ病を発病して自殺した事案】

 本件は、業務上のミスをした若年の女性社員が、ある上司から、繰り返される事務処理上のミスについて、大声や強い口調で叱責され、それが頻回となり、また、配置転換後には他の上司からも毎日のように、強い叱責を受けるようになって、配転から3か月近くが経過した頃に上司より公休日の夜に電話で業務のミスを指導された翌朝に飛び降り自殺したという事案です。

 上司2名が叱責する過程で人格や人間性を否定するという発言が含まれていれば違法性は明らかです。しかし、上司の言葉のうち名古屋高裁判決が認定した中で一番きついと思われるのが「てめえ」でした。それでも上司2名の言動が不法行為を構成すると認められたのは、時には一緒になって、継続的かつ頻回に、長時間にわたり、大声または強い口調で叱責を繰り返したからです。

 上司の言動の違法性は一審も控訴審も肯定されたので、本件における最大の争点は、うつ病発病の有無と自殺との因果関係です。

 被災者の母親は、自殺3か月前には、朝の身支度をした後に出宅時まで横になっており、昼の弁当はおにぎりだけとなったこと、自殺2か月前には、出宅時までずっと寝ており、髪を梳かさず、また春になったのにブーツを履いて出かけたと供述し、また、同僚は、口数が少なくなった、目が泳いでいた、疲れている様子であったと証言しました。しかし、一審の名古屋地裁判決は、「多くの従業員は、被災者の自殺直前まで、被災者の心身状態の変化を特に感じなかった」ことを重視し、うつ病の発病自体を否定して、自殺との因果関係も否定しました。これに対し、控訴審の名古屋高裁判決は、身なりを構わなくなり、趣味のアニメに関するツイートが減ったことが興味の喪失に該当し、易疲労感の増大や食欲不振も認めただけでなく、上司からの叱責を受けても業務上のミスが減らないことが集中力と注意力の減退に該当し、また、叱責後に被災者が落ち込んだ様子で「また言われちゃった」と同僚に述べたことが自己評価と自信の低下に該当するとし、自殺直前には軽症または中等症うつ病エピソードを発病していたと認定し、自殺との因果関係を肯定しました。

 名古屋高裁判決は、同僚の認識ではなく、繰り返される業務上のミスとこれに伴う継続した叱責によるストレスを重視しています。高裁判決が、女性社員のミスが減らなかった原因として、上司が「感情的に被災者に対する叱責を繰り返したことにより被災者の心理的負荷が蓄積されたことも相当程度影響している」との地裁判決の判断を維持していることからも分かります。すなわち、ミス→叱責→ミス・・・という悪循環が被災者に与える心理的負荷を増大させ、このスパイラルはうつ病エピソードを発病させる客観的な危険性があるので、同僚の主観に左右されないということでしょう。

 そして、名古屋高裁判決は、会社が、上司の「叱責行為について、これを制止ないし改善するように注意・指導すべき義務」を怠ったことだけでなく、特に配転後の被災者の「業務の負担や遂行状況を把握し、場合によっては、被災者の業務内容や業務分配の見直しや増員を実施すべき義務」も怠ったと判断しました。悪循環を止めるためには、「叱責」だけでなく、「ミス」も止めなければならないということであり、この2つの安全配慮義務違反を肯定したことは注目されます。

 

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