解雇の地位確認と賃金支払いを命じる労働審判

1 事件の概要

 相手方Yは、呼吸器科のクリニックを設置・運営する医療法人社団です。申立人X1は、用度担当と在宅訪問診療担当を兼任する正規職員です。申立人X2は、経理、総務及び人事を担当する正規職員です。両名とも主任の資格を有していました。

 2007年5月、Yは、就業規則を改定するとして、X1に、その同意書に署名押印させようとしたことから、X1はこれを拒否するとともに、労働条件や雇用の維持を図るため、労働組合を結成しました。Yは、組合の存在を否認し、脱退工作を始め、非組合員であるX2にも「組合員とみなす。解雇する」と通告しました。組合は、賞与の支給などを求めて団体交渉を申し入れましたが、Yはこれに応じることなく、同年7月、一方的に一律10万円の賞与を全職員に支給しました。組合は、同年7月30日付けで東京都労働委員会へ救済を申し立てました。

 同年8月3日、Yは、X1とX2に対し、「事業縮小による整理解雇をする」と通告してきました。また、Yは、X1とX2に対し、同年8月24日に解雇予告手当ではなく、8月分の月給を振り込んだ上で、同月31日付けで懲戒解雇すると通告してきました。懲戒事由は、①X1とX2が共謀して「ボーナス資金」を確保するため取引先への支払いを止めたこと、②職務怠慢、③X1とX2は職務中に「組合」と称する謀議活動を行ったことの3点でした。

 そこで、X1とX2は、整理解雇と懲戒解雇の双方が無効であるとして、労働審判を申し立てました。

 第1回期日の当日にYの代理人から答弁書が提出されましたが、「追って認否する」というものであり、何らの書証も提出されませんでした。このため、審判官が出頭したYの理事を尋問したところ、解雇理由については、整理解雇を撤回し、懲戒解雇に絞られたものの、懲戒事由については、「理事の机に資料がある」、「まだ調査中」などと要領を得ない陳述をしたため、第2回期日にYの追加主張を待つことになりました。

 Yから準備書面が提出されたのは第2回期日の当日であり、しかも就業規則の偽造という新たな懲戒事由が主張されました。しかし、提出された書証は懲戒事由を立証するに足りないものであったことから、「解雇無効」を前提として調停が試みられたものの、YがX1とX2の謝罪を和解の条件としたため、調停はすぐに打ち切られ、審判となりました。

2 審判要旨

 X1とX2が、Yに対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

  1. X1とX2が、Yに対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
  2. Yは、X1とX2に対し、2007年9月1日から毎月25日限り月例給と各支払期日の翌日からの遅延損害金を支払え。

 

3 コメント

 Yが不誠実な応訴態度を示したことにもよりますが、第1回期日から、労働審判委員会が積極的にY側を尋問し、X1とX2についても交互尋問をした結果、「解雇無効」の心証が形成されたと思われます。訴訟では、「追って認否する」、「まだ調査中」との答弁が許され、準備書面によって争点整理がなされた後に、打ち合わせをした上で尋問に臨むのが通例であり、第1回期日からYの理事を尋問することはありません。労働審判だからこそ、第1回期日からYの主張の不自然さを浮き彫りにすることができたと思われ、ここに口頭主義、直接主義を旨とする労働審判の醍醐味があります。

 労働審判委員会は、第2回期日において、Yの和解方針が明らかになった段階で、いたずらに調停を続けず、金銭解決ではなく、地位確認と未払賃金の支払いを認める労働審判を行いましたが、妥当です。

 本件は、Yから異議が申し立てられ、本訴に移行しましたが、勝訴的な和解で終了しました。

解雇のページ一覧

弁護士による労災事故・過労死の損害賠償のご相談 事故の人身傷害による後遺障害・慰謝料の請求は、つまこい法律事務所にご相談ください。 03-6806-0265 受付時間:平日 9:00~18:30 (当日相談可能) JR御徒町駅より徒歩5分 ご相談の予約