産後の肥立ちが悪い妻を助けて育児を行うため、夫が育休を1年取って復帰したところ、乳児の養育をしなければならない家庭環境なのに、宿泊を伴う出張を繰り返し命じられるので、上司に自宅を留守にすることはできないと申し入れたが、上司が個人の事情は聞き入れないと述べた場合、出張命令に従わなくてはならないのでしょうか。
育児中の労働者に宿泊を伴う出張を繰り返し命じるのが、その労働者が出張に行く業務上の必要性がなく、他の従業員が行くことが可能であり、職場に居づらくさせるなどの嫌がらせが目的であったとしたら、出張命令は権利の濫用として無効となり、労働者はその命令に従わなくてよいことになります。
また、パワーハラスメントは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。その一類型として、「過大な要求」(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)があります。家族的責任を負う労働者にとって、多数回にわたる宿泊付きの出張は「過大な要求」としてパワーハラスメントに当たる可能性がありますので、会社に就業環境の整備を求めて、労働審判や調停を申し立てることが考えられます。
逆に、「過小な要求」(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)もパワーハラスメントに当たります。上司が育児中の労働者に簡易な仕事を少ししか与えないというのであれば、この場合も「過小な要求」であるとして、就業環境の整備を求めることができます。
なお、育児介護休業法に基づく短時間勤務や所定外労働免除の請求も考えられます。有給補償であるかを確認してみてください。