従業員が就業規則に違反する行為をしていた場合、会社はその事実を見聞きしていた他の労働者に対し、調査への協力を命令することができます。ただし、その労働者は、会社の調査にすべて従う義務はありません。
最高裁判決は、勤務時間中に原水爆禁止運動への署名を呼びかけた従業員の処分に関し、同僚が会社の聞き取り調査に応じる義務があるかが争われた事案につき、「調査に協力することが労務を提供する上で必要かつ合理的な場合」には、労働者が協力する義務があるとの判断を示しました。
例えば、先輩社員の居眠りで、自分の仕事に影響がなく、居眠りについても単に見聞きしていたのにすぎないのであれば、会社が後輩社員に調査をするのは「必要かつ合理的」とまではいえません。これに対し、社内チームで担当していた作業が遅れるなどの影響があれば、調査への協力は「必要かつ合理的」といえます。
もう一つ重要なのは、調査内容の合理性です。会社が調査協力を命じられるのは、あくまでも、先輩社員の居眠りによって、職務執行が具体的にどのような支障を来したのか、という点に限られます。先輩社員の日ごろの仕事ぶりや人格、私生活にわたる質問については、後輩社員が、会社から仮に聞かれても、答える義務があるとは認められません。
会社が事実関係を調査する際、職場の仲間に任意の協力を求めることは自由です。しかし、仕事に支障があったという事情がないのに、懲戒処分をちらつかせて協力を無理強いすることは問題です。
会社の調査に協力しなかったことを理由に懲戒されたら、その効力を争うことができる場合がありますので、弁護士にご相談ください。