会社は、口ひげを生やす者や茶髪にする従業員を職場秩序を乱したとして懲戒処分を課すことはできるのでしょうか。
従業員が口ひげを生やしたり、茶髪にしたりすることは、原則として、個人の自由です。市民社会において対等な地位にある労働者と使用者との労働関係において、使用者が労働者の自由を規制することはできるのかというと、労働契約にその根拠が求められます。労働契約に基づく労務提供義務から、労働者はひげを剃る(または髪の色を黒にする)義務を負い、労務提供受領権から、使用者は労働者にひげを剃らせる(または髪の色を黒にさせる)権利を有し、その旨の業務命令を発令することができるのです。
使用者の権能が労働契約に基づく以上、労働者の自由を制約し、労働者がひげを剃る(または髪の色を黒にする)義務は、労務提供義務に関連する合理的な範囲内に限られてきます。
労働契約上、ハイヤー運転手が清潔な身だしなみを要求されることは、職務の性質から当然といえますが、口ひげが一般的に不潔であるとは認められないので、裁判例で挙げられている「無精ひげ」、「異様、奇異なひげ」に限定するのは妥当でしょう。
会社の業種や従業員の職種によっては、従業員に労働契約上清潔な身だしなみを要求されます。身だしなみについて就業規則に規定を設けている会社もあり、この身だしなみ規定に基づき、会社が口ひげを剃ることを指導することはよいのですが、それを超えて、口ひげ一般について剃ることを義務付ける業務命令を発令したり、執拗な指導を繰り返したりすることはできません。就業規則の規定があるといっても、口ひげに関していえば、顧客に不快感を与える「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」に限定されていると解釈されます。
よって、従業員が「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」を生やしているのであれば、会社は、業務命令によりこれを剃ることを命じることができますし、その業務命令に従わなければ懲戒処分を課すこともできます。
次に毛髪の色に関しては、従業員が茶髪にしたとしても、会社としては、個人の自由であることを前提にして、従業員の茶髪の色が、異様、奇異に見える、顧客に不快感を与えるというのであれば、会社は、業務命令によりこれを染め直すことを命じることができますし、その業務命令に従わなければ懲戒処分を課すこともできます。このことは、長髪についても同様です。
会社が合理的な範囲内を超えて、ひげや髪色を規制し、これに従わないとして懲戒をしてきたときは、訴訟や労働審判の申立てをすることができますので、弁護士にご相談ください。