事案と受任前
本件は、工具専門商社の関越営業所長(40代男性)が、工具の展示会や取引先への営業・クレーム対応、これに伴う多数回の出張、社内会議への出席など多岐にわたる業務を遂行するため、深夜に及ぶ長時間労働、自宅持ち帰り残業、所定休日における出勤をしたことから、2005年6月26日、趣味であった和太鼓の稽古中に急性心筋梗塞を発症して死亡した事案です。
遺族である未成年の子が祖母を後見人として労災認定を得ていたのですが、損害賠償請求訴訟を提起する段階で、同期の弁護士が当職に応援を求めてきたことから、代理人に就任しました。
弁護活動と結果
結論として、会社の損害賠償責任を肯定した勝訴判決を得ることができました。
会社は営業所のトップである管理職であったから裁量があったと主張しましたが、営業業務や管理業務の過重性を証拠から具体的かつ詳細に主張するとともに、管理職といえども自らの仕事量を調整する裁量はなかったと主張しました。この点につき、千葉地裁松戸支部平成26年8月29日判決(労働判例1113号32頁)は、「被災者は、関越営業所長として、自己を含む同営業所の従業員全員の勤怠管理をしていたのであるが、被災者の営業所長としての業務は極めて頻繁に社内会議や営業先への出張に出向き、その中で内勤業務を処理するというものであり、絶対的に業務量が多く、持ち帰り残業や土日出勤もしなければ処理しきれない状況にあったから、被災者が自分の判断で自らの勤務時間を適正なものに減ずることは困難であった」ことを理由に、「被災者に勤怠管理の権限が与えられていたことは、被告の前記義務(注:労働者の心身の健康を損なうことがないよう、人員体制を見直す等の被災者の業務負担を軽減する措置を講じる義務)を否定する根拠となるものではない」と判断し、会社の主張を採用しませんでした。
解決のポイント
千葉地裁松戸支部判決は被災者の労働基準法上の管理監督者性を否定したのですが、生前、会社は管理監督者として扱っており、残業代を支払わなかったばかりか、労働時間を把握していませんでした。タイムカードもないので、労働時間を算定する直接の証拠はなかったのですが、諸々の資料から死亡前1年間の労働時間を算定しました。また、単に出張回数が多かったというだけでなく、その業務内容、出張地域と営業車の使用、展示会や接待における身体的・精神的な負荷を明らかにしました。
過重な労働実態の立証に成功したことから、死亡による逸失利益を算定する基礎収入に月45時間分の残業代が含められたのですが、それだけでなく、心電図の異常な波形があった40代の男性であったにもかかわらず、2割という比較的低い割合の素因減額にとどまりました。