事案と受任前
本件は、アパレル会社のマーチャンダイザー(50代男性)が、東京店の事業部次長として、商品の企画のほかに生産管理などの業務にも従事し、恒常的に午後9時から10時まで残業に従事して、休日は市場リサーチや東京店への出勤もしていたことから疲労を蓄積させ、1997年10月1日、仕事中に脳出血を発症した事案です。
被災者は一命を取り留めたものの、高度の後遺障害を負い、収入が減少したことから、妻が今後の生活に不安を覚え、生活の補償が得られるよう相談をしてきました。
弁護活動と結果
被災者は、肥満、高血圧や糖尿病の持病があり、心筋梗塞も患っており、旧労災認定基準では認定が困難な事案であると判断し、まずは東京地裁に損害賠償請求訴訟を提起することにしました。
被災者の部下であった3名の女性デザイナーから提供された資料を分析し、事情聴取をして陳述書を証拠として提出しました。また、会社から提出された大量の証拠も分析し、入念に準備をした上で、会社側の証人であった部下の男性社員に対する反対尋問に臨みました。
尋問終了後に裁判所から和解勧告があり、被災者の発症前6か月間の時間外労働時間は1か月平均おおむね80時間となるところ、会社は労働時間を把握し得たので、被災者の悪化した健康状態のままで過重な業務に就かせていたならば、被災者の健康を害することについて、十分に予見可能性があったといえるとし、安全配慮義務違反を肯定する和解案が提示されました。
その結果、会社が損害賠償金を支払う勝訴的な和解を勝ち取りました。
解決のポイント
被災者本人のタイムカード等労働時間についての客観的な記録はありませんでしたが、部下のデザイナーに協力を要請し、資料の提供や事情聴取に応じてもらい、その証言に基づき、警備会社の警備開始セット時刻やデザイナーのタイムカード等から、裁判所に長時間労働を認めさせることに成功しました。
そして、和解を受けて労災申請をし、訴訟での結果を労働基準監督署に報告したところ、既に2001年の労災認定基準改定後であったこともあり、発症前6か月間の長時間労働が認められて、労働災害(労災)と認定されました。