事案と受任前
本件は、銀行の国際金融法人部次長(40代男性)が、アジア経済危機発生後に自宅持ち帰り残業を含む長時間労働に従事して疲労を蓄積させていたところ、シンガポールとヨーロッパの計5か国を歴訪し、14の外国銀行に外国為替円決済セールスをして帰国した4日後の1998年4月29日に心筋梗塞を発症して死亡した事案です。
被災者の妻は他の弁護士に依頼して労災申請をし、労働災害(労災)と認定されましたが、銀行に対する損害賠償請求に当たり、当職の先輩弁護士に依頼し、その先輩弁護士からの応援を受け、訴訟の代理人に就きました。
弁護活動と結果
東京地裁に損害賠償請求訴訟を提起し、早い段階で裁判所に労働基準監督署への労災認定記録を開示させる文書送付嘱託を申し立てました。労働基準監督署から開示された労災認定記録を分析するとともに、銀行の元同僚や他銀行の行員から事情聴取をして陳述書を作成し、業務の内容やストレス、アジア経済危機に伴う仕事量の増大、海外出張の負荷、人員不足などを具体的に主張しました。
また、妻の詳細な陳述書を作成するだけでなく、最後の海外出張のスケジュールや時差による就労時間帯の変化に関する表、海外出張前の労働時間数やこれを示す電子メールの送信に関する表を作成して、ビジュアル的に分かりやすく説明することに努めました。そして、被災者の妻、上司と海外出張に帯同した同僚の3名の尋問をした後、裁判所から安全配慮義務違反を肯定する和解勧告がありました。
その結果、銀行が損害賠償金を支払う勝訴的な和解を勝ち取りました。
解決のポイント
労災申請段階で被災者の妻が作成した資料や表など労災認定記録がありましたが、損害賠償請求訴訟において、あらためて従前の証拠を再評価するとともに、銀行の元同僚や他銀行の元行員を事情聴取して詳細な陳述書を作成して提出しました。この丁寧な立証活動が裁判所に銀行員の労働実態、業務によるストレスや海外出張の負荷を理解させ、勝訴的な和解に結びついたと考えます。