事案と受任前
本件は、ネスレ霞ヶ浦工場で勤務していたネッスル日本労働組合(第一組合)の組合員2名が、約7年以上前の上司への3件の「暴行事件」を主たる理由に2001年4月26日付けで懲戒解雇されたことから、労働契約上の従業員たる地位の確認、未払賃金の支払いを求めた事案です。
先輩の弁護士から応援を依頼され、一審訴訟の途中から代理人に就任しました。
弁護活動と結果
最高裁第二小法廷は、2006年10月6日、東京高裁平成16年2月25日判決(労働判例869号87頁)を破棄し、ネスレの控訴を棄却して、組合員2名の請求を全面的に認容した水戸地裁龍ヶ崎支部平成14年10月11日判決(労働判例843号55頁)を確定させました(労働判例925号11頁)。 ※裁判所HP
組合員2名は懲戒権行使を基礎付ける事実である「暴行事件」の存在を争いましたが、最高裁判決は懲戒権行使時期のみ判断をしました。すなわち、最高裁判決は、「本件各事件(注:暴行事件)は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、捜査の結果を待たずとも被上告人(注:会社)において上告人ら(注:組合員2名)に対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、本件において長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難(く)」、「本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨退職処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかった」から、「本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は・・・処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはでき」ず、「本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効」と判断しました。
解決のポイント
水戸地裁龍ヶ崎支部では、そもそも「暴行事件」の存在を争っていましたが、それだけでなく、医学文献を提出するなどして組合員から暴行を受けたという上司の課長代理の傷害の内容や程度について反論し、課長代理の尋問ではこの点を追及しました。この訴訟活動が一審判決で勝訴した理由の一つであると考えます。
これに対し、東京高裁判決は、課長代理の証言をすべて信用して「暴行事件」の存在を肯定し、懲戒解雇処分を有効と判断したのですが、法律審である最高裁では事実の審理をしないので「暴行事件」の存在を否定することはできませんでした。しかし、課長代理が受けたという傷害の存在について疑義を生じさせた訴訟活動が最高裁での逆転勝訴につながった理由の一つといえるでしょう。