新薬開発の臨床責任者(男・30代)が心停止(心臓性突然死)をした過労死事案の労災認定

事案と受任前

 本件は、製薬会社の新薬開発における臨床試験プロジェクトの責任者(30代男性)が、深夜における海外とのテレカンファレンスやビデオテレカンファレンス、多岐にわたる文書・資料の作成をし、その業務が深夜に及ぶこともあり、恒常的に長時間労働をしていたのに、人員削減が行われたばかりか、治験デザインや施設選定の行き詰まりにより精神的ストレスを受けたことから、2001年10月12日、自宅で心停止を発症して死亡(心臓性突然死)した事案です。

 当初は遺族である母が単独で行政訴訟を提起していたのですが、同期の弁護士が当職に応援を求めてきたことから、代理人に就任しました。

弁護活動と結果

 結論として、労働災害(労災)と認定した勝訴判決を得ることができました。

 訴訟では、臨床開発の業務を遂行するには、研究者と懇親を図ることが求められたので、被災者は会合後の懇親会や食事会に出席していたことから、この時間も労働時間として認められると主張しました。この主張を受け、東京地裁判決は、「当該懇親会等が、予め当該業務の遂行上必要不可欠なものと客観的に認められ、かつ、それへの出席・参加が事実上強制されているような場合」はその懇親会等に要した時間を労働時間と認めるとの判断をしました。得意先等を接待するというだけではなく、従業員同士でオフサイトミーティングをする、社内で懇親会をすることでも労働時間性が認められる場合がある、という点が特徴的です。

 また、不規則な勤務形態ではないものの、深夜までの就労や自宅持ち帰り残業、休日の作業そのものが負担であったことを主張しました。この点につき、東京地裁判決は、「休日を含め自宅においても深夜まで業務を行うことや、業務に関連して帰宅が深夜に及ぶ日も相当数あったといえ、その意味で実際の勤務状態はかなり不規則なものであった」と認定しました。判決は、マスコミなど一般に不規則な勤務の多い業務でなくても、業務の実態から深夜労働や自宅持ち帰り残業があり、それによって勤務自体が不規則になったのであれば、そのような勤務形態自体を過重であったと評価したことにも意義があります。

 そして、深夜労働や自宅持ち帰り残業をせざるを得なかったのは、厳しいスケジュール管理とその下での業務遂行にあったとして、精神的ストレスも認められ、労働災害(労災)と認定しました。

解決のポイント

 訴訟では、クレジットカード明細やタクシーの領収書などから懇親会の業務性を主張し、自宅パソコンの履歴から自宅持ち帰り残業を立証し、被災者の手帳やノート、会議の資料や議事録、電子メールなどを詳細に分析して、労働実態を具体的に主張しました。

 また、元同僚の事情聴取を行って陳述書を提出するとともに、証人申請をしたものの、結果として元同僚の証人尋問を行うことができず、いったんは不利な事態となりました。しかし、東日本大震災の余震が続く中、行政訴訟追行中という異例の段階で会社に対する証拠保全の執行をして多数の資料を獲得し、これを裁判所に証拠として追加提出しました。

 このような粘り強い訴訟活動が労災認定に結びついたと考えます。

過労死(労災保険)に関するその他解決実績

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