事案と受任前
本件は、草津地区のリゾートマンション等の仲介・販売を担当する営業チームのリーダー(40代男性)が、土・日曜日や祝日に草津へ頻繁に出張するため、出張時には早朝に出発し、深夜に帰宅しており、往復には埼玉の自宅から草津まで長時間にわたり自家用車を運転していたことから、日常的に残業・休日出勤をしており、身体的負荷が掛かっただけでなく、大幅な人員削減、売れにくい物件を担当するプレッシャー、販売実績の不振、販売目標の達成度による賃金減額などから精神的ストレスも掛かったことにより、2002年6月23日、草津出張中に急性心筋梗塞を発症して死亡した事案です。
遺族である妻が単独で労災申請、行政不服審査請求を行っていましたが、行政訴訟を提起する段階で代理人に就任しました。
弁護活動と結果
結論として、労働災害(労災)と認定した勝訴判決を得ることができました。
本件では、出張時に自家用車を運転して移動する時間が長いので、これが労働時間に当たるかが重要な争点となりました。出張の移動時間は一般的に労働時間と評価されないことが多く、訴訟でも被告・国は労働時間性を否定する主張をしていましたが、自家用車を利用して草津等への出張することは業務上の必要性がある一方、自家用車を運転して移動することは身体的負荷があることから、労働時間性が認められると主張しました。この主張を受け、東京地裁平成20年6月25日判決(労働判例968号143頁)は、自家用車を利用しての移動について、使用者の指揮命令下にあるものとして労働時間に算入しました。
また、出張の回数や日数、頻度、移動手段から身体的な負荷を受けたとも主張したところ、東京地裁判決は、「自家用車を使用した移動のほうが電車の乗り継ぎによる移動よりも便利で煩雑さを軽減できるということがあったとしても、その移動自体による身体的負荷は、相当程度大きなものであった」と認定しました。
身体的負荷だけでなく、管理職の精神的ストレスを丹念に拾い上げていき、判決では精神的ストレスが認められ、労災認定されました。
解決のポイント
訴訟では、草津出張について、電車利用が不便であり、顧客訪問をする際に自家用車の使用が必要で、会社も自家用車による業務遂行を承認していたことから、自家用車による移動は業務上の必要であったことを具体的かつ詳細に主張し、移動時間の労働時間性を裁判所に認めさせたことに意義があります。
また、本件では、重篤な基礎疾患(高血圧など)が労働災害(労災)を否定する事情として、被告・国より主張されていました。これに対し、通常の日常業務を支障なく遂行していれば、基礎疾患があっても急性心筋梗塞が発症寸前であったとは認められないと主張したところ、東京地裁判決は、個人的な要因を理由に労働災害(労災)を否定しませんでした。業務の過重性だけでなく、医学的な関連性も文献を証拠として提出するなどして主張したことも解決のポイントであると考えます。