長崎研究所の船舶・海洋研究推進室長(男・40代)が公休日のテニスレッスン中に急性心筋梗塞を発症し、脳に重度の後遺障害を負った事案の労災認定

事案と受任前

 本件は、長崎研究所の船舶・海洋研究推進室長(40代男性)が、1994年1月8日正午頃、テニスクラブでのレッスン中に急性心筋梗塞を発症し、これに伴う低酸素脳症により失語及び意思疎通不能の重度の後遺障害を負った事案です。

 長崎労働基準監督署長が、過重労働が認められないこと、年末年始に休暇をとっていたこと、テニスのレッスン中であったことなどを理由に、労働災害(労災)を否定したことから、被災者の妻が単独で行政不服審査請求をしてきましたが棄却され、長崎地裁に行政訴訟を起こす段階で代理人に就任しました。

弁護活動と結果

 長崎地裁平成16年3月2日判決(労働判例873号143頁)は、過重労働を認め、心筋梗塞を発症したことについて労働災害(労災)と認定しました。 ※裁判所HP

 以下では、訴訟での工夫や判決内容を述べます。

 本件では、8日間の年末年始休暇を取得して年始に2日間出勤した後に発症したことから、訴訟では、年末年始休暇に入る前に心筋梗塞を発症する危険性があり、休暇を取得するだけではこの危険性は解消されなかったことを強調しました。

 長崎地裁判決は、年末年始休暇に入る前に業務による過労が原因で心筋梗塞を発症する危険性があり、休暇を取得するだけではこの危険性は解消されず、また、この危険性があった以上、テニスによる運動負荷があってもこれは発症の引き金にすぎず、業務と心筋梗塞との因果関係を認める妨げにはならないとし、労働災害(労災)を否定しませんでした。たとえ発症直前に休暇をとっていても、疲労が回復したとはいえないことを主張した成果といえます。

 また、被災した男性は研究者兼管理職であり、タイムカードなどの客観的な記録がありませんでしたが、被災者側に協力してくれる同僚証言が得られました。長崎地裁判決は、同僚等の証言により長労働時間を認定しました。明確な資料がない中で、同僚等の証言から、労働時間を積極的に認定した意義は大きいです。

 さらに、本件では、「(平成5年)11月及び12月には研究計画の策定、要員の見直し、予算の編成、本社役員による事業所視察及び見学会の準備等の仕事が重なり、時間的にも質的にも極めて多忙な日々を送って」おり、「このような中で原告が担当していた研究業務には相当の遅れが出ていたのであるから、これが原告に対して大きな負荷となっていた」と認定されました。

 長崎地裁判決は、被災者の業務による精神的ストレスについて、同僚証言その他関係各証拠から被災者の主張に沿う事実を認定しました。本件における主な過重負荷要因は、管理職の長時間労働と精神的ストレスであったのですが、この「目に見えにくい」負荷を、判決は、証拠から丹念に認定しました。

解決のポイント

 当の本人が高度障害で意思疎通ができず、妻には夫の仕事の詳細が分からない中で、弁護士が長崎にある被災者の自宅を訪問し、数箱ある段ボール箱から探し出した仕事の資料を丹念に分析して主張した成果です。客観資料がなくても諦めず、労働時間を推計し、そのために被災者の労働実態を知る同僚の供述を得たことが重要な証拠となりました。まさに証拠を探し出す、作り出すという過労死事件の醍醐味といえましょう。

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