公認会計士(男・40代)が深夜や休日の自宅持ち帰り残業を含めた長時間労働により脳出血を発症して死亡した事案の労災認定

事案と受任前

 本件は、監査法人でマネージャーを務めていた公認会計士(男性・死亡時46歳)が約15社のプロジェクトチームの責任者として国内外の企業の会計監査業務に従事していたことから、日常的に深夜に帰宅しただけでなく、さらに自宅でも持ち帰り残業をしていました。特に国外企業に多い12月期決算後の1月は朝帰りになることもありました。休日も自宅でパソコン作業をしており、このような長時間労働が継続したことにより疲労とストレスを蓄積させていたところ、2016年2月2日深夜に脳出血を発症して同月4日に死亡した事案です。

 妻が労災申請をしたところ、業務外決定を受けたため、審査請求段階から当職が代理人に就任しました。

弁護活動と結果

 妻に対する深夜の帰宅を告げる携帯メールは残っていたものの、業務で使用していたノートパソコンは使用者に返却していました。当職が、使用者に対して弁護士会を通じた照会をし、業務内容に関する資料、文書ファイル等の更新時刻や電子メールの送信時刻などのデジタル情報の開示を求めましたが、有用な資料が全く提出されなかったことから、資料の破棄、隠匿、改ざんのおそれがあるとして、東京地方裁判所に証拠保全の申立てをしました。裁判所より証拠保全の決定が出されて監査法人へ執行に赴いた当日、使用者側は資料をごく一部しか提出しなかったため、弁護士が裁判官と協議し重ねながら一定の譲歩をしつつ、監査法人側を説得した結果、ノートパソコンのシステムログ、文書ファイル等の更新時刻や電子メールの送信時刻などのデジタル情報を中心に証拠を保全することができました。

 証拠保全の前に審査請求をしていましたが、東京労働者災害補償保険審査官にも証拠保全を秘匿しなければならないので、時間稼ぎをしました。そして、証拠保全で取得した資料を分析して労働時間を集計し、東京労働局に審査請求理由書を提出しましたが、審査請求を棄却されました。

 妻が労働保険審査会に再審査請求をしたところ、使用者が労働基準監督署に提出していることを明かさなかったデジタル情報が判明したので、さらに精緻な分析をして労働時間を再集計し、労働保険審査会の口頭審理において審査官の労働時間の認定が証拠評価を誤ったものであることを主張したところ、労働保険審査会は、2020年1月29日、請求人側が主張する労働時間の算定方法をほぼ採用して労働時間を算定し直し、業務外決定を取り消しました。

解決のポイント

 証拠保全の執行において使用者側の頑強な抵抗に受けつつも、必要不可欠なデジタル情報を取得できました。しかも、ウェブメールではパソコンからも携帯電話からもメールが送信できるため、事業場外でもメールの送信ができるとの使用者の主張を中央労働基準監督署や東京労働局が鵜呑みにしたのですが、証拠保全で取得したデジタル情報はノートパソコンの端末に保存されたメールであり、携帯電話から送信されたメールは保存されていなかったので、移動中などに送信したものではないと反論し、労働保険審査会の審査員に理解させたことが、逆転勝利裁決となったポイントです。

 行政不服審査で処分が取り消されると、訴訟と違い、労働基準監督署に不服申立権はなく、中央労働基準監督署は労働保険審査会の裁決に従って労働災害(労災)と認定しました。

 証拠保全は裁判手続ですので、弁護士しか代理人に就けません。遺族が労働基準監督署の業務外決定を受けた後に早めに弁護士に相談をし、弁護士が迅速に証拠保全の申立てをしたことが勝敗に分かれ目であったと考えます。

 

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