事案と受任前
本件は、被災者(30代男性)が、注文主の工場内において注文主所有の固定式高床バッテリーカーの運転台に右足を乗せたところ、ブレーキペダルを踏んでブレーキが解除され、これにより同車が急に後方の柱側に発進し、運転台にまだ乗せていなかった左足が後方の柱とバッテリーカーに挟まれ、左下肢を切断する傷害を負った事案です。
左下肢は2分の1以上を欠損して、左膝の運動可能領域が著しく低下し、筋力も低下して、走行、スポーツ全般、正座、胡座、自動車運転、荷物の運搬、長時間の歩行、直立、階段・坂道・砂利道での歩行等に支障を生じことから、当職が代理人に就任して会社に損害賠償請求をすることにしました。
弁護活動と結果
会社は、労働安全衛生法上、構内で物品を運搬するバッテリーカーの作業の安全を図るため、走行を制動し、または停止の状態を保持するため、有効な制動装置を備える義務を負っており、これは安全配慮義務の内容にもなります。
また、会社は、労働安全衛生法上、安全教育を実施する義務を負います。本件に即していえば、バッテリーカーの構造、性能や危険な箇所、操作や作業方法、作業上・安全上の注意事項および予想される危険等について説明し、バッテリーカーおよび事業場施設から生ずる危険が労働者に及ばないよう、十分な安全教育を実施する義務があり、これも安全配慮義務の内容になります。
このような責任を構成して、会社宛に損害賠償を請求する催告書を送付したところ、会社にも代理人が就き、示談交渉をしました。
本件では、被災者の落ち度を完全に否定することはできず、過失相殺はやむを得ない事案でしたが、会社は8割という大幅な過失相殺を主張してきたので、裁判例を精査して反論し、5割を切る過失相殺をすることで合意し、会社が損害賠償金を支払う示談が成立しました。
解決のポイント
本件では、雇用されていた会社のみに催告書を送ったのですが、その書面にはバッテリーカーを所有していた注文主の責任と、バッテリーカーを注文主から借り受けていた元請け会社の責任も記載し、雇用されていた会社との示談が成立しないのであれば、3社を被告として損害賠償請求訴訟を提起することを通告しました。雇用されていた会社にこのプレッシャーを掛けたことが、示談成立につながり、早期の解決ができたと考えます。