事案と受任前
本件は、被災者(30代男性)が、橋梁等の鋼構造物を製作する元請け会社の工場内で、元請け社員が運転するクレーンにより鋼材の運搬をしている現場付近の通路を歩いていたところ、元請け社員が運転ミスをしたことによりクレーンのフックに接触し、そのため鋼材が転倒して下敷きとなり、死亡した事案です。
元請け社員の運転ミスは明らかであり、元請け会社の使用者責任は認められるのは当然ですが、それだけでなく、元請け会社自体の過失があるとして、元労働基準監督署に勤務していた父が相談してきたことから、代理人に就任しました。
弁護活動と結果
東京地裁に損害賠償請求訴訟を提起して、元請け社員の注意義務違反と元請け会社の使用者責任を主張しつつ、労働安全衛生法、労働安全衛生規則およびクレーン等安全規則といった法令を駆使した安全配慮義務を構成しました。
すなわち、元請け会社には、労災事故防止措置や安全教育の実施義務とともに、クレーンによる作業を行うときは、クレーンの運転について合図を定めた上で行い、吊り上げられている荷の下に労働者を立ち入らせてはならない義務や、通路は常時有効に安全性を保持するとともに、労働災害発生の危険が生じた場合に労働者が避難するのに必要な措置を講じる義務など、法令と同内容の義務が発生することを具体的に主張しました。
東京地裁平成17年7月27日判決は、元請け会社の損害賠償責任を認めました。
解決のポイント
クレーン等安全規則は吊り上げられている荷の下に労働者を立ち入らせることを禁止していますが、他方で被災者も事故現場に近づいたことから、過失相殺を余儀なくされましたが、被告側の過失が相当程度重大であるとして、2割という比較的低い割合の過失相殺にとどまりました。
過失相殺の割合も意識して、クレーン運転手の過失が重大であり、元請け会社自体に安全配慮義務があることを、労働安全衛生法令を活用して具体的かつ詳細に主張したことが功を奏したと考えます。