事案と受任前
本件は、医院でデイケアサービスを受けていた高齢男性(70代)が、そのデイケアから帰宅するための送迎バスを降りた直後、介助をしていた介護士が目を離したときに路上に転倒して右大腿部を骨折し、さらには肺炎を発症して死亡した事案です。
当職が代理人に就任し、高齢男性の遺族は、医院を設置運営していた医師に対し、高齢男性の死亡は医師またはその雇用する介護士の不注意により生じたものとして、東京地裁に損害賠償請求訴訟を提起しました。
弁護活動と結果
結論として、医師の損害賠償責任を認めた判決を勝ち取ることができました。
東京地裁平成15年3月20日判決(判例時報1840号20頁)は、「高齢男性の年齢、身体状況に加え、送迎の際に存在する転倒の危険に鑑みるならば、被告医師は、高齢男性の生命及び身体の安全を確保すべき義務を果たすため、医院へ通院するために高齢男性を送迎するにあたっては、同人の移動の際に常時介護士が目を離さずにいることが可能となるような態勢をとるべき契約上の義務を負っていた」とし、介護士の指導や送迎職員の増員をするなど介助中の転倒事故を防ぐための措置をとることを怠ったと判断して、医師の損害賠償責任を認めました。
解決のポイント
本件は、デイケア中の介護事故ではなく、送迎中の事故であるので、医院の送迎バスによる送迎を受けるという契約が成立するのか、契約が成立しているとして、送迎するに際して男性の生命および身体の安全を確保すべき義務が発生するのかが争点となりました。この点を事実関係と法律論の両面から丁寧に主張し、裁判所にこの義務を認めさせたことが解決のポイントであると考えます。