事案と受任前
本件は、自家用普通貨物自動車の運転手が、対向車線で徐行した車両に気を取られ、自宅マンションに戻るため中央分離帯付近で立ち止まって車両の通行がなくなるのを待っていた被害者の男性(80代)を発見するのが遅れてブレーキを踏んだものの、被害者と衝突したことから、被害者は路上に転倒して後頭部を強打し、後頭部外傷性出血を伴って意識障害を起こし、外後頭隆起損傷等の傷害を負い、後に一過性の左上肢脱力と黒内障の発作が起き、内頸動脈狭窄と診断された事案です。
損害保険会社は交通事故と内頸動脈狭窄の因果関係を認めず、東京簡裁に調停を申し立ててきたことから、当職が代理人に就任しました。
弁護活動と結果
東京簡裁での調停が不成立となったので、東京地裁に損害賠償請求訴訟を提起しました。
訴訟では、被害者は、交通事故により、外後頭隆起が損傷するほどの急激な外力を後頭部と頸部に受けて頸部を過伸展し、時間の経過とともに内頸動脈の亀裂、ことに小さな解離が進行し、内皮の損傷とともに徐々に血管空を狭め、ついに閉塞したことから、段階的に一過性脳虚血発作を起こし、最終的には遅発性脳血管障害の症状が出現したと主張しました。これを裏付けるため、内頸動脈狭窄や一過性黒内障などの医学文献を多数検索して提出したほか、主治医だけでなく、3名の専門医に医学意見書を書いてもらいました。
その結果、内頸動脈狭窄については、3割の限度で因果関係を認めた裁判所の和解案が提示され、和解が成立しました。
解決のポイント
被害者は80歳の高齢であったことから、内頸動脈狭窄が加齢の影響によることを完全に否定することはできず、交通事故の因果関係における寄与度が低くなりましたが、多数の医学文献を読み込んで内頸動脈狭窄を勉強して、専門医との面談に臨み、電子メールで意見交換をしながら医学意見書を完成させました。また、カルテを精査するとともに、被害者より事情聴取をして症状や治療の経過を詳細に解明しました。
因果関係を肯定するのが困難な事案でしたので、医学の勉強をした成果を書面に著していなければ裁判所に一定割合の因果関係を認めさせることはできなかったと思われます。