メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱える労働者に対し、使用者は配置転換(異動)などの負担軽減措置をとるべきです。しかし、配置転換(異動)は労働者に別の面で不利益となる場合があり、慎重に実施しなければなりません。
そもそも配置転換(異動)はどういう行為なのでしょうか。労働契約では、賃金のほか、勤務日、勤務時間、勤務場所、労務提供先、職種・業務内容を定めなければなりません。配置転換(異動)は勤務場所や職種・業務内容、場合によっては勤務日や勤務時間の変更にあたり、この契約変更には原則として使用者と労働者の合意が必要です。
ただ、就業規則などに規定があれば、合意しなくても使用者は命令権を持つとされる一方、最高裁は、業務上の必要性がない、不当な動機や目的がある、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるなどの場合、配置転換(異動)は権利濫用として無効だと判断しています。特に労働者の不利益があるかどうかが多くの裁判で争点になっています。
例えば、営業職から事務職への配置転換(異動)を考えてみます。事務職の方が治療時間を確保でき、回復したら営業職に戻すということなら、健康にも配慮されており、労働者の不利益が著しく大きいとはいえないかもしれません。一方、処遇やキャリアに影響する場合もあります。強制的に行うとストレスで病気の悪化を招くおそれがあります。
営業部門の中で、多忙な本社から仕事量の少ない地方営業所に転勤するケースも、通勤の長時間化や単身赴任で労働者の負担が増すと、病気が悪化してしまうかもしれません。
個別に判断しなければなりませんが、少なくとも病気を悪化させるおそれのある配置転換(異動)は労働者にとって著しい不利益があると判断される可能性があります。実際に悪くなれば、使用者は損害賠償責任を負うこともあります。
さらに使用者には、配置転換(異動)に際し、事前の説明義務、健康状態の事前調査義務、健康障害防止のための配転命令撤回義務があるといえます。実施後に病気が悪化して労働者が相談してきたとき、命令解除や休職などの措置を検討する必要があります。
メンタルヘルス不全の対応は難しい場面があろうかと思います。病気の悪化を招かないよう、お早めに弁護士にご相談ください。配置転換(異動)の効力を争う場合、これを拒否するか、配置転換(異動)に応じた上で法的手続きをするのかを検討する必要があります。前者の場合、懲戒解雇のおそれがありますので、体調面も含めて具体的な事情を考慮しなければなりません。
また、会社に損害賠償をするという場合、ケースごとに訴訟がよいか、それとも労働審判がよいのかを検討していきましょう。