会社勤めに転勤は、ついて回るものといえます。でも、育児・介護の負担がある人にとっては、重大事です。家庭の事情を理由に、転勤を断ることはできるのでしょうか。
会社には、勤務地を限定するという労働者との合意がなく、就業規則等で配置転換を定めていれば、転勤を命じる権限があります。ただし、①業務上の必要性がない、②嫌がらせなど不当な動機や目的がある、③著しい不利益を労働者に与える、のいずれかに該当する場合は、権利の濫用として、転勤命令は無効となります。
家庭の事情で転勤を拒否し、過去に裁判となった例では、③の「著しい不利益」が認められるかどうかが争点となることが多いです。
共働きの妻と2歳の娘、70歳代の母親と同居し、神戸から名古屋への転勤命令を拒否した社員が、懲戒解雇された例では、妻は仕事を辞められず、母は健康だが連れていくのは難しく、単身赴任を強いられるなどと社員は訴えたのですが、裁判所は、「転勤に伴い通常甘受すべき程度」の不利益だとして、転勤命令を有効としました。
一方、共働きの妻と6か月、3歳の子がいて東京から大阪への転勤を拒んだ社員の場合、裁判所は、子2人が重症のアトピー性皮膚炎で、通院や看護、入浴や食事の配慮など仕事を持った親1人で対処するのは肉体的、精神的にも過酷だとして、「通常甘受すべき不利益を著しく超える」とし、転勤命令を無効としました。
この裁判では、社員が転勤に応じることのみを強く求めた会社の対応が、2002年施行の改正育児・介護休業法の趣旨に反し、権利濫用にあたるとも指摘されました。育児・介護休業法は、転勤を命じる際には、労働者の意向を斟酌するなどの配慮をするよう義務づけています。
他の裁判例の傾向から、家族の育児・介護で特別に手がかかるという事情があれば、転勤命令を拒むことはできます。ただし、転勤を拒むと業務命令違反を理由に懲戒解雇をされる可能性があるので、いったん転勤命令に応じた上で、その効力を裁判で争うという方法を選ぶのが賢明かもしれません。
労働者に不利益があるかどうかの判断はケース・バイ・ケースなので、家族的な責任を抱えているのに転勤を命じられたという場合は、ご相談ください。転勤命令を拒否するか、それとも転勤した上で命令の効力を争うのかを判断します。転勤の効力を争う場合は、ケースごとに訴訟がよいか、それとも労働審判がよいのかを検討していきましょう。
懲戒解雇されたときは、訴訟や労働審判の申立てをしますので、この場合も弁護士にご相談ください。