就業規則に「出向を命じることがある」と定められているだけなのに、出向先での賃金や労働時間などの労働条件が明示されないまま、会社から出向を命じられた場合、断ることはできるのでしょうか。
出向に関して最高裁判決は、本人が同意していない協力会社への出向の適否が争われた事案につき、①在籍したまま出向する場合があることを就業規則で規定されており、②労働協約でも、出向期間、地位、賃金、出向手当、昇格・昇給など出向者の利益に配慮して詳細に規定されていたことから、業務上の必要性や人選の合理性があり、出向者に著しい不利益がなければ、会社は社員の同意なしに出向を命令できると判断しました。
最高裁は労働者の個別の同意は不要としましたが、この最高裁判決によっても、就業規則に「出向を命じることができる」という抽象的な規定しかなければ、出向命令が無効となります。出向後の労働条件・処遇、出向期間、復帰条件などの具体的な規定が必要であり、就業規則において休職の一事由として出向を定めているだけでは足りません。
「出向を命じることがある」との規定だけでは、出向に関して労働者の包括的同意があったとはいえず、この規定に基づき、労働者の個別同意のない出向命令を発令しても権利の濫用として無効になる可能性があります。
労働契約法は、ワークライフバランスに関する規定(3条3項)を置き、使用者は、労働者に提示する労働条件について労働者の理解を深めて、労働契約の内容についてできる限り書面により確認するものとする(4条)と規定しています。
出向は、労務提供先が変更されるだけでなく、勤務の場所や時間、それに賃金等の労働条件が変更されることになるので、労働契約の変更となります。就業規則に抽象的な規定しかないのであれば、会社としては、ワークライフバランスを考え、出向中の労働条件を提示するとともに、出向の必要性や出向者として選ばれた理由を説明し、労働者の理解を得た上で、書面で合意することが必要です。
出向中の労働条件を明示しないままで出向命令を強行しても、労働契約法14条により無効となります。
出向命令を拒否すると懲戒解雇になるおそれがありますが、異議を述べて出向に応じた上で、この命令の効力を争うことはできますので、お早めに弁護士にご相談ください。