建設現場の労災事故と企業の損害賠償責任

建設現場において墜落事故が発生して労働者が負傷したり、死亡したりした場合、会社は、損害賠償責任を負うのでしょうか。

1 墜落による死亡災害事例

 被災者Aは、高校卒業以後一貫してB塗装会社の従業員であり、妻Eと未成年の子Fがいます。

 C建設会社は、ビル建築工事を受注し、B塗装会社は、その下請負をする際、作業に必要な設備をC建設会社が設置または提供すること、作業に伴う危険防止措置や作業内容全般につきC建設会社の指図に従うこと、B塗装会社と同社の従業員はC建設会社の雇用する現場主任Dから具体的な作業上・安全衛生上の指図を受けることを合意しました。

 被災者Aは、上記ビル建築工事現場において地上5メートルの場所で塗装作業に従事していたが、バランスを崩して作業床の開口部より墜落し、頭部を強打して死亡しました。

 現場主任DおよびB塗装会社は、被災者Aに塗装作業をさせる際、高さ2メートル以上の作業床の開口部に囲い等を設けたり、防網を張ったり、また、被災者Aに安全帯を使用させたりしていませんでした。

2 安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任

 本事例では、まず、元請事業者であるC建設会社の請け負ったビル建築現場内で、作業に必要な設備をC建設会社が提供し、C建設会社の包括的な指揮監督下で、被災者Aは作業していたから、C建設会社は、被災者Aに対し、労働関係上の信義則に基づく安全配慮義務を負っていました。

 そして、B塗装会社は、被災者Aの事業者として、労働安全衛生法上、「高さが2メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所は、囲い、手すり、覆い等を設け」るか、あるいは「囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させ」なければならない義務(労働安全衛生法21条、労働安全衛生規則519条)を有していますが、このB塗装会社の労働安全衛生法上の義務は安全配慮義務でもあります。

 また、C建設会社も、B塗装会社が負っている労働安全衛生法上の義務および安全配慮義務と同一内容の義務を労働関係上の信義則に基づく安全配慮義務として負っていました。C建設会社と、その被用者である現場主任Dは、この義務を怠ったから、B塗装会社とともに、被災者Aの遺族であるEとFに対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。なお、C建設会社は、現場主任Dの選任や事業の監督につき相当の注意をなしたり、または相当の注意をしたけれども損害が発生したりしたことを証明した場合は免責されますが、裁判例の傾向はこの免責事由を認めることに消極的ですので、結果として、被災者Aの遺族であるEとFに対し、損害賠償責任を負うことは免れないでしょう。

3 工作物責任

 本事例では、B塗装会社はC建設会社から提供された設備を使用しているものの排他的には使用できないので、B塗装会社とC建設会社が共同で占有していることになります。

 そこで、本事例を検討してみると、本件作業床は土地の工作物であり、墜落防止設備を設置していませんでしたので、欠陥があったと認められます。

 したがって、B塗装会社とC建設会社は、被災者Aの遺族であるEとFに対し、損害賠償責任(工作物責任)を負うことになります。

 B塗装会社は、損害発生防止のための必要な注意をしたことを立証すれば工作物責任を免れますが、本事例ではB塗装会社が必要な注意をしたとはいえません。C建設会社は、所有者なので、損害発生防止のための必要な注意をしたか否かにかかわらず、損害賠償責任を免れることはできません。

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