不況を理由に企業が休業する場合の賃金や雇用はどうなるのでしょうか。
操業停止による休業は、労働者側は働く意思があって準備も整っているのに、使用者側の都合で労務の提供を拒んだ状態です。働く側からすると、落ち度もないのに仕事に来なくていいと言われるのですから、賃金を払ってもらえないと困ってしまいます。
民法は、使用者側に過失があって休業したような場合、労働者は賃金の全額を請求できるという規定を設けています。しかし、地震による直接的な被害を受けて物理的に休業せざるを得ない場合は、不可抗力と見なされ、使用者に責任は生じません。
他方、不況によって景気が悪化したというだけであれば、経営者としてはあらかじめ景気変動を予測して対応すべきなのであり、過失があるというべきでしょう。これに対し、特定の親事業者から原材料の供給を受けて事業を営む下請け工場において、親事業者の業績不振によって原材料が供給されず、しかも他から調達ができなかったという場合は、さすがに使用者側に過失があるとはいえず、賃金の全額を請求することはできないでしょう。
ただし、労働契約や労働協約、就業規則などで賃金を支払うとの取り決めがあれば、それが優先されることになります。このような取り決めがなくても、労働基準法は、休業手当を賃金の6割以上支払わなければならないと定めています。つまり、労働者は、休業中の賃金を全額請求できなくても、最低6割の休業手当は請求できるのです。使用者は、少なくとも6割の休業手当を支払うことが罰則をもって強制されています。使用者の責任については、民法よりも労働基準法の方が広い解釈がなされているので、最低でも平均賃金の6割分にあたる休業手当は支払われることになります。
とはいえ、賃金が4割もカットされれば、労働者は生活が脅かされます。使用者としては、労働者の不利益が大きくならないようにすべきでしょう。
使用者に過失があって賃金全額を請求できる場合は、訴訟や労働審判の申立てをしますので、弁護士にご相談ください。
また、不況の影響で勤め先が倒産したり、事業活動が続けられなくなったりして困っている労働者も出ています。事業は継続するものの一部を閉鎖したり、事業を縮小したりする場合に行われるのが「整理解雇」です。そのような場合でも労働契約法が適用され、整理解雇するには合理的な理由が必要です。会社側の都合だけで一方的に社員を整理解雇することは制限されています。
整理解雇をするなら、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③解雇対象者の合理的な人選基準、④事前の説明・協議の4つの要件をクリアしなければなりません。これらが満たされていなければ、一般的にその整理解雇は無効になると考えられています。整理解雇の前に労使で話し合い、可能な限り雇用の確保を目指すべきです。
不況を理由に整理解雇をする場合、その効力は厳しく判断されますので、個別の事情から要件を満たすかどうかを慎重に検討しなければなりません。会社が整理解雇をしてきた場合は、争う手段として労働審判が考えられます。ただし、人数が多い、財務分析などが複雑である、職場復帰(復職)をしたいという場合は、訴訟が適していることがあります。事案に適した対処方針を検討していきましょう。資料をお持ちになって弁護士にご相談ください。