出張中の事故に遭った場合、まず労災認定されるかどうかが問題となります。残業代が発生するかどうかに関しては、自宅と出張先との間の移動は一般的に労働時間とはみなされないことが多いのですが、労働災害(労災)の場合は、自宅を出てから自宅を戻るまで、移動時間や宿泊中も含めた全行程が業務の遂行と認められます。
ただし、宿泊先のホテルで泥酔して階段を踏み外したとか、ホテルへチェックインした後に私的な飲食で外出した際の事故で怪我をした場合などは、業務の範囲外とみなされます。そもそも出張を業務として命じられていなかったり、日当が支給されていなかったりするなど、会社の指示で出張したといえない場合も、業務の範囲外と判断されることがあります。
食品会社の陸上部に所属する選手が1990年に日本代表チームの合宿に向かう途中に交通事故死したケースについて、業務命令の有無が争いになりました。労働基準監督署では、「日本陸上競技連盟が個人の資質に着目して選手に参加を依頼した」として、会社の業務命令による出張と認められませんでした。しかし、遺族が不服審査申立をすると、労働保険審査会は、会社が合宿への参加を承認し、移動に使った車を手配して経費の負担をしていることなどから、会社の指揮監督・管理下にあり、業務中の事故として労働災害(労災)と判断しました。
研究所勤めなどの方は、遠方の研究会や学会に参加することがあると思います。会社の業務命令による出張といえるかどうか、踏まえておく必要があるでしょう。
出張中の事故で怪我をしたというとき、会社に業務中であったことを認めさせて、労災申請をします。会社との交渉や労働基準監督署への労災申請について弁護士が代理人となることができますので、ご相談ください。
では、過労死の場合には、出張先との間の移動時間は、労働時間に算入されるでしょうか。
この点につき、自宅から車を運転し、頻繁に遠方まで出張していた営業マンのケースがあります。東京地裁は、2008年6月、公共交通機関での移動が不便で車を使うしかなく、車での移動時間も含めて長時間労働とみなし、長時間の運転も疲労を蓄積させたとし、過労死と認める判断を示しました。ただ、公共交通機関を利用した場合には労働時間と認めていないケースもあり、事例によって判断が分かれています。
公共交通機関を利用しても移動すると疲れるものです。移動中の時間を労働時間と認めさせることは簡単なことではありませんが、その他の事情も加味して過労死と認定される可能性はあります。出張の多い事案は、まず出張などの業務に関する証拠を収集し、労働時間数を算定してから、労働基準監督署に労災申請をしたほうがよいです。初動で証拠を保全することが肝要ですので、お早めに弁護士にご相談ください。