肝臓の病気で主治医から残業禁止と診断され、会社に伝えてはいるけれど、担当する仕事の量が多いため、実際は毎日残業しているという場合、上司が見て見ぬふりをしているとしたら、会社の責任を問えるでしょうか。
業務量が多いため残業せざるをえない場合、上司の明確な残業指示がなくても、業務量は上司も知っているわけですから、黙示の残業命令があったとして、残業代の支払いを命じた裁判例があります。
また、会社には、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をしなければならないという安全配慮義務(労働契約法5条)があります。
この安全配慮義務の具体的な内容については、病気や身体障害などの事情を会社側が知っていて就労させたのであれば、その事情に応じた義務が課されます。
たとえば心臓の機能障害をもつ労働者が、仕事の心理的な負荷が重かったために精神障害になった事案では、会社は心臓の機能障害を知って雇用しているので、混雑する時間帯の長時間通勤や長時間の立ち仕事、残業をできる限り避けるなどの安全配慮義務を負うとした裁判例があります。
この場合も、会社側は病気を知っていますから、残業をさせないという安全配慮義務を負っているのです。
上司は、会社の代理監督者として、この義務を果たすべき立場にありますが、部署全体の仕事量がとても多いため、病気の部下の残業を黙認させざるをえなかったということであれば、そもそも適切な人員配置を欠いた会社の労務管理の責任が重いといえます。
まずは会社の人事部などに残業禁止を徹底するよう申し出てみてください。
そして、残業により病気が悪化したということであれば、仕事や残業に関する資料をお持ちになり、ご相談ください。病気や仕事の状況を見極めなければなりませんが、弁護士が代理人となって、労働審判や訴訟を提起するなどし、残業代や損害賠償を請求することができます。