離婚して子どもの親権者となり、自分は婚姻前の氏に戻ったものの、子どもは結婚当時の氏のままになっている場合、親子で同じ氏にするため、親が婚姻していたときの氏に変更することはできるでしょうか。
民法では、婚姻によって氏を改めた夫または妻は、離婚によって婚姻前の氏に戻ることを原則としています。ただし、離婚の日から3か月以内であれば、市町村長に届け出ることにより、婚姻の際に称していた氏を名乗ることができます。
これはあくまで離婚に伴う民法上の規定なので、3か月以内に手続きをしなかった場合は、家庭裁判所に氏の変更の申立てをすることになります。
戸籍法107条1項は、「やむを得ない事由」があるときに限って家庭裁判所の許可を得て氏を変更することを認めています。「やむを得ない事由」とは、戸籍上の氏を使うことによって、社会生活を送るうえで著しい支障が生じ、その事情が社会的にみても相当と認められることをいいます。例えば、①通姓を長い間使用してきたため、戸籍上の氏では誰のことかが識別できない、②珍奇と判断される氏である、③難解な氏である、などです。婚姻時の氏に変更したいというのは、①に当たるかどうかが問題になるケースです。
離婚した親権者の氏に子の氏を変更することは簡単に許可されますが、親権者の氏の変更はよほどの事情がないと許可されません。家庭裁判所の裁量にもよりますが、会社の名刺や年賀状など、職場や付き合いなどにおいて離婚後も婚姻時の氏を使っている証拠を提出する必要があります。また、子どもと暮らすにあたり、社会生活上、氏の変更をしなければならない真にやむを得ない事情があるとともに、その事情が社会的、客観的にみても是認されるものと認められれば、氏の変更が許可される可能性があります。
氏の変更が認められたら、家庭裁判所の審判書謄本と確定証明書を添えて役所に届け出をします。ただし、もし離婚したときに親の戸籍に戻っており、子どもは前の配偶者の戸籍に入ったままだとすると、一つの戸籍に違う氏の人は入れませんから、親の戸籍から抜けて、自分を戸籍筆頭者とする新しい戸籍をつくらなければなりません。
その上で、子どもを自分の戸籍に入れるには、「子の氏の変更許可申立書」を家庭裁判所に提出し、子どもの氏の変更許可を求める審判を申し立てます。子どもの氏は変わらないのですが、あくまで前の配偶者の氏なのですから、新しく取得した親権者の戸籍の氏に変更するためには、家庭裁判所の許可が必要になります。
氏の変更が家庭裁判所で許可されると、親権者の戸籍に入れることができます。氏の変更許可の審判書謄本を添えて入籍届けをすることになります。
身分変更にともなう戸籍の問題は法律がまたがっていることもあり、複雑です。弁護士が代理人となって家庭裁判所に氏の変更許可申立てを行うことができます。働いていて家庭裁判所に氏の変更の許可申立てをする時間がない、どのように申立てをしたらよいかが分からないという場合は、弁護士にご相談ください。