身長170cm、体重65kgの体格を有する柔道初心者の高校1年生が、柔道の授業において、体育教諭に指示され、身長180cm、体重90kgの体格を有する柔道部員と乱取りを行い、背負い投げをかけたところ、柔道部員の身体を支えきれなくなり顔面から柔道場の畳に崩れ落ち、頸椎脱臼骨折および頸髄損傷の傷害を負いました。この場合、生徒は、学校運営者に損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
柔道の授業において、体格に差がある者の間での乱取りをする場合、体格差により増加する事故の危険性を回避する能力が求められます。受傷した生徒の技量や練習量は授業で習う通常の範囲を超えていないのですから、対戦相手として、柔道部で日常的に練習を行って技量を磨き、身長において10cm、体重において25kg上回る生徒と対戦して受傷の危険を回避することが困難でした。
文部科学省の「柔道の授業の安全な実施に向けて」と題する文書には、「技能の程度や体力が大きく異なる生徒同士を組ませることは事故のもとです。必ず、同程度の生徒同士を組ませるよう特に教員が配慮しましょう。」と記載されており、体育教諭としては、受傷した生徒が授業中に柔道部員と乱取りをするには日常的な練習が不足をしている状態であり、乱取りで生じる危険を回避できる能力が十分でないため、乱取りを行わせることは危険であったから、この組み合わせの乱取りが安全であるかどうかを検討してこれを中止させるべきでした。仮に乱取りを行わせる際には、危険のないよう適切に指導するべきでした。それにもかかわらず、体育教諭は、受傷した生徒の技量を把握しないまま、漫然と柔道部員との乱取りを行わせたのですから、生徒は学校運営者に慰謝料などの損害賠償を請求することができると考えられます。
ただし、受傷した生徒も、体格差があり、技量もないのに、無理に背負い投げをかけようとしたとしたら、事故発生に落ち度があったことになり、損害が過失相殺されることになります。そもそも学校に損害賠償責任が認められるのか、生徒の過失相殺の割合はどの程度になるのかはケース・バイ・ケースの判断となりますので、まずは弁護士にご相談ください。