運動会での騎馬戦で騎馬が倒壊した事故の損害賠償・慰謝料

 高校2年生が運動会での大将落としの騎馬戦において、大将騎馬の守備騎馬のうち先頭馬役を務めていたところ、試合開始とともに相手騎馬が大将騎馬を目がけて押し寄せてきたため、敵味方の騎馬数騎とともに倒れ、頸椎脱臼骨折、頸髄損傷および四肢麻痺の傷害を負いました。この場合、生徒は、学校運営者に損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。

 学校行事である運動会は、日常的な教育活動と違い、危険に対する対応能力が生徒に十分に備わっているわけではないので、担当教諭は、十分な計画策定、適切な指示・注意、事故が発生した場合の対応策等危険を防止し、生徒の安全を確保するための措置を講じるとの一般的安全配慮義務を負っています。

 具体的には、▼事前に十分に計画を練り、運営方法を検討する等の義務、競技内容、生徒の能力に応じて、生徒に対し指導、監督、注意する義務、▼運動会に伴う事故を回避するため、一定の場合には生徒に動静を監視して、行事の進行状況等を把握し、危険な状態が発現すれば直ちに対応できるようにしておくべき義務があるというのが裁判例です。

 近年、組体操が危険性が高いとして社会問題となりましたが、騎馬戦や棒倒しも運動会で盛り上がる競技である一方、生徒の生命・身体に危険が及ぶ可能性があります。

 大将落としの騎馬戦は、対戦相手の大将騎馬の騎手(大将)を先に引きずり落とした方が勝ちというルールのもとで行う競技であり、騎手が騎馬から落下したり、騎馬が崩れたり、大将騎馬に相手騎馬が殺到したりするので、危険性が高いといえます。

 福岡地裁判決(平成11年9月2日)は、練習における指導につき、大将落としという騎士同士が組み合って騎馬を倒壊させようとする競技方法を採用し、一騎対複数騎の対戦を禁止しなかったこと、騎馬を組んでいる馬役の一方の意思のみでは組み手がなかなか外れず、倒壊の際、騎馬の構成員の一人に多大な圧力が生じる可能性があるという危険性があることから、教諭は、生徒の騎馬戦の経験や運動能力等を十分に把握し、生徒に対し、騎馬戦における安全確保のための注意や指示を行い、練習段階において、騎馬の倒壊の仕方、組み手の外し方等についての指導、訓練をするとの安全配慮義務を負っていたが、これを怠ったと認めました。

 また、騎馬戦における監視体制につき、福岡地裁判決は、騎馬戦に伴う事故を回避するため、騎馬の動向を注視して、対戦騎馬の一方が倒壊しそうになったり、複数の騎馬が集中して一緒に倒壊しそうになったりして、生徒が負傷する危険が生じたような場合には、教諭は、直ちにこれに対応して、対戦を中止させたり、騎馬の構成員の転落、転倒を防止したりする等の措置を採ることができる監視体制をあらかじめ整えておく安全配慮義務を負っていたが、大将騎馬以外の各審判員には担当騎馬が決まっておらず、それでは目の前の騎馬についての審判をしている際に別の騎馬を見る余裕がなくなるおそれがあるから、この監視体制整備義務に違反したと判断しました。

 騎馬戦を実施する際に、教諭が説明・指導義務や監視義務に違反していたことにより生徒が負傷したのであれば、生徒は学校運営者に慰謝料などの損害賠償を請求することができます。

 一騎打ちのみを認めていた騎馬戦による人身傷害事案である福岡地裁判決(平成27年3月3日)も生徒の過失相殺を認めませんでしたが、生徒がむやみに相手騎馬に体重を掛けたり、わざと無理な態勢に持ち込んで倒れたりした場合には、事故発生に落ち度があったことになり、損害が過失相殺される可能性があります。生徒の過失相殺の割合はどの程度になるのかはケース・バイ・ケースの判断となりますので、まずは弁護士にご相談ください。

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