高校2年生がチアリーディング部に所属し、体育館内で練習をする際は、通常、高所から墜落したときに備えて衝撃を緩和するマットを敷き、墜落した部員を受け止める要員を周りに配置した上で演技の練習をするのに、事故当日は、体操部がマットを使用していたので、マットを敷かず、また、練習に参加した部員が少なかったので、墜落時の要員を配置せず、顧問教諭の監視がないまま練習を開始したところ、高所から墜落して頭部を床に衝突し、頭蓋骨骨折および脳出血の重傷を負いました。この場合、生徒は、学校運営者に損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
高等学校の部活動において受傷事故が発生した場合、学校側は、部活動は生徒の自主活動とされており、顧問教諭に要求される義務の程度は義務教育における義務の程度と比べて軽減されると主張することがあります。
しかし、実際には顧問教諭の指導監督の下で部活動が行われるのが通常ですから、顧問教諭は生徒の人身傷害が発生しないよう適切な措置を講じなければなりません。
チアリーディング部での墜落事故については、顧問教諭は、墜落を防止するため周りに人を配置する、墜落しても受傷しないよう周りに人を配置したりマットを敷いたりするなどの危険防止措置を講じた上で、チアリーディングの演技をさせるとの安全配慮義務を負っています。周囲の要員は、墜落の方向が変化したり、予測した方向とは反対側に墜落したりすることもあるので、2名以上は確保すべきでしょう。
また、顧問教諭は、マットを敷いたり周りに人を配置したりしないまま練習をした場合に墜落事故が発生すると人身傷害に至る危険性があること、また墜落時には手を床に付いたり頭部を手で覆ったりして頭部の受傷に対処することを教示するとの安全配慮義務を負っています。
さらに、顧問教諭は、部活動中に墜落等の事故が発生しないよう監視し、危険防止措置が講じられないままでの練習を中止させる安全配慮義務を負います。
顧問教諭など学校側の義務違反があるかを検討してみると、まずマットは他の部活動で使用すると不足するのであれば墜落による人身傷害を防止できる程度の枚数のマットを補充すべきです。部員が少ない場合は顧問教諭が周りで監視し、墜落を防止したり、墜落した生徒を受け止めたりするべきでした。このような危険防止措置を講じていなかったことにより墜落による人身傷害が発生したと認められます。
また、顧問教諭は、部員に対し、墜落事故の危険性や墜落時の対処方法を十分に教育していなかったことから、墜落による人身障害が発生したとも認められます。
したがって、顧問教諭には危険防止措置と安全教育実施について安全配慮義務違反が認められるので、生徒は、学校運営者に対し、慰謝料や後遺障害による損害の賠償を請求することができます。
高等学校の部活動においても、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付(医療費、障害見舞金)が支給されますが、慰謝料に相当する給付はなく、後遺障害による損害が全て補償されるわけではありませんので、事故や怪我に関する資料をお持ちになり、弁護士にご相談ください。