夏休みの真夏日(練習時気温31℃以上)に、中学校のサッカー部において、顧問教諭が通常よりきついメニューで練習をさせていたのに、水分補給の指示を出さずに職員室に戻り、その間に、練習前に「体調が悪い」と部長に述べていた中学1年生の部員が大量の汗をかき、とても苦しそうな表情でグラウンドに倒れ、その後熱中症により死亡しました。この場合、生徒の両親は、学校運営者に損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
熱中症について、顧問教諭は、部の活動全体を掌握して指導監督に当たる者であるから、練習中、部員の生命、身体に危険が及ばないように配慮し、とりわけ熱中症の起こる可能性の極めて高いことが認められる夏季においては、部員が暑さと激しい運動により熱中症に罹患しないよう、練習中は適宜休憩を取らせ、十分に水分補給をさせるなどの適切な措置を講ずべき安全配慮義務を負っています。
熱中症の危険性とその予防対策の重要性が周知されている現在は、顧問教諭は、熱中症が発生する危険性や熱中症の予防には休憩や水分補給が重要であることについて一定程度の知識を有しているのが通常であるといえます。真夏の気候は、スポーツを行う環境としては危険ないし中止域の範囲にある条件下にあった可能性があるので、顧問教諭としては、積極的に休憩や水分・塩分の補給をさせ、また、練習の実施については、時間やメニューを軽減するなど十分に配慮を要することが必要でした。しかも、人の体力の限界には個人差があり、同一人であっても体調や条件の変化により体力の限界の異なるので、練習を参加者全員に一様に行わせるべきではありませんでした。
さらに、部員が練習をしている際には、顧問教諭が立ち会って監督し、常に部員の動静や体調を把握して、体調の悪い部員には休養させたり、他の部員とは別メニューの練習をさせたりするべきであり、暑熱環境によっては全員の練習自体を中止すべきでした。
しかし、顧問教諭は、常時グラウンドにいて練習を監督せず、中学1年生にとって、夏季のグラウンドでの練習は上級生より体力の消耗や疲労が激しいことが予測されたにもかかわらず、「体調が悪い」ともらしていた部員に対し直ちに練習の中止を命じて休ませ、その全身状態を十分に観察することを怠りました。しかも、全体の練習メニューが通常よりきつかったにもかかわらず、練習メニューを軽減したり、練習時間を短縮したりするなどの措置を講じなかったばかりか、水分補給のための休憩をこまめに取らせませんでした。
したがって、顧問教諭には安全配慮義務違反が認められるのであり、これにより1年の部員は熱中症を発症し、さらにこれを増悪させて死亡するに至ったものと認められます。
中学校の部活動においても、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付(死亡見舞金)が支給されますが、慰謝料に相当する給付はなく、死亡による損害が全て補償されるわけではありませんので、遺族は学校運営者に慰謝料などの損害賠償を請求することができます。
重大な人身傷害が発生した場合は、学校側が事故報告書を作成する例が多いので、これを開示させて顧問教諭の監督・指導の態様、義務違反を検討することができます。この検討段階から弁護士に相談されることをお勧めします。