未成年が自転車を運転している際に交通事故を起こして、相手の歩行者や自転車運転者に怪我を負わせた場合、その未成年者には資力がないのが一般的です。このとき、被害者は、未成年者の親権者に対し、損害賠償請求をすることができるのでしょうか。
責任無能力者を監督する義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。責任能力の有無は、一般論として、小学校を卒業する12歳程度の知能が備わっているかどうかが大まかな基準となります。そのため、幼稚園児や小学校低学年の児童が自転車を運転しているときに歩行者や自転車運転者に怪我を負わせた場合は、親権者が損害賠償責任を負うことに問題はありません。
問題となるのは、小学校6年生、中学生、高校生が加害者となる場合です。このとき親権者は損害賠償責任を一切免れるかというと、そうではなく、未成年者に対する監督義務を怠り、その義務違反と未成年者の交通事故との間に因果関係が認められる場合は損害賠償責任を負うことになります。
裁判例としては、13歳の中学生が、無灯火で相当な速度で自転車を走行し、交差点でブレーキを掛ける間もなく自転車を運転していた被害者と衝突して、被害者に人身傷害を負わせた事案につき、東京地裁判決(平成19年5月15日)は、両親が、中学生が交通ルールを守らずに高速で自転車を運転していたことを知っていたにもかかわらず、監督義務を果たしていなかったと認定し、損害賠償責任を肯定しました。
親が子に自転車の運転について注意するよう口頭で指導をしていたとしても、損害賠償責任を負うことがあります。12歳の小学6年生が、夜間の塾帰りに自転車で帰宅する友人らと「鬼ごっこ」をしながら帰宅していた際に自転車を運転していた被害者と衝突して、被害者に人身傷害を負わせた事案につき、東京地裁判決(平成22年9月14日)は、両親としては、小学生が塾から帰宅するのにどのような走行経路をたどっているのか、その間にどのようにして自転車を運転しているのかといったことについて具体的に把握をした上、小学生が危険な自転車の運転をしないよう、塾から自宅までの走行経路、その間における自転車の運転方法等を具体的に指導すべきであったのに、自転車の運転に際し交通法規を遵守するよう教育監督すべき義務に違反したとして、損害賠償責任を肯定しました。この事案では、両親は、ライトを点灯すること、明るい道を使用すること、交差点では一時停止することといった一般的な注意を与えていたのですが、裁判所は、両親が現認できない塾帰りにおいて、小学生が「鬼ごっこ」をしていたことを把握していなかったこと、事故時は通常よりも速い速度で走行していたことを重視して監督義務違反を認めたことが注目されます。
このように親が子の危険な自転車運転を放置していたというのが実情であれば、被害者は、未成年者の親権者に対し、監督義務違反を主張して損害賠償請求をすることができます。
他方、普段から問題行動のない未成年者の事案では親権者の損害賠償責任を否定した裁判例もありますので、監督義務違反はケース・バイ・ケースの判断となります。
そこで、未成年が運転する自転車と衝突して人身傷害を負ったのに、その親権者が保険を掛けていないという場合は、加害者側との交渉の段階から弁護士に相談することをお勧めします。